書評:アムンゼンの南極点征服
アムンゼンは、当初、北極探検に行くという触れこみで出港したのだが、出港した後で、南極点を経由して行くことを明らかにした。そして、南極へ向かう航海の途中になって初めて、先に大々的に出かけて行ったスコット率いるイギリス隊に通報して仁義を切っている。
イギリス人は、そういったやり方や、犬に橇をひかせ、荷物が消費して小さくなるごとに、犬を殺して残りの犬の餌にしたり自分達も食べる、というやり方に対して冷やかに反応した。
イギリス人にしてみれば、キャプテンクックが南方大陸を目指して南極圏に突入して以来、ロスはロス海を探検し、第1次スコット隊、シャクルトン隊と着々と南極点に迫っていったのに、最後の土壇場でノルウェー人に栄冠をさらわれてしまって心中面白くないのだろう。
でも、アムンゼンは、南極点制覇のルートとして、歴代イギリス隊があとわずか180キロというところまで達していたルートは使わず、まったく未知の独自ルートを選んだ。
北西航路探検中に北極圏内で2回も越冬しているうちにイヌイットから学んだ寒冷地のノウハウや、犬ぞりの利用こそが成功の要因なのである。これは、スコット隊において、動力橇や馬がほとんど役に立たず、 装備も極限の世界では十分機能しなかったことが体力の消耗につながったことと対照的だ。
すさまじい探検を、まるでピクニックのようにさらっと書いているのはアムンゼンの性格なのだろう。ただ、嘘は書いていない。犬を食べることなども正直に書いてある。
爽快な冒険ドキュメントでした。
ところで、アムンゼンは、その前に、北西航路を初制覇した。ヨーロッパからアメリカ西海岸に行くのに、はるばるマゼラン海峡経由でなく、カナダの北をすっと通過できれば便利だろうと、幾多のチャレンジが繰り返されたが、とうとう最初に成功したのはアムンゼンだった。
実はこちらも、先鞭をつけたのはイギリス海軍で、キャプテンクックを派遣してバンクーバー辺りからグリーンランドに抜けられる水路を探し回ったが見つからず、果ては、満を持して送り込んだフランクリンの探検隊129人が誰一人として帰ってこないという惨事に見舞われていた。
その後になって、アムンゼンが北西航路経由でアラスカに達して喝采を浴びることとなったのだ。
そして南極でもまたイギリス人は苦い思いをすることになってしまったのは歴史のいたずらといえようか。
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