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2008年8月 8日 (金)

書評:世界最悪の旅―スコット南極探検隊

世界最悪の旅―スコット南極探検隊

スコットはアムンゼンに先を越されて失意のうちに帰途遭難死するが、これは、生還した隊員ガラードの手記。こちらは、辛い探検の辛さを正直に書いている。イヌイットの知恵を完全にマスターして余裕の感じられるアムンゼンの南極探検記の後に読むと、正攻法ではとても行けない場所に正攻法で行ってしまったイギリス紳士たちの紳士ぶりに脱帽したくなる。

圧巻は、冬の南極大陸で小屋を出てペンギンの卵を採りに行く遠征。

何しろ南極の冬は太陽が昇らない。昼前後に薄明るくなるだけだ。地形はおろか、来た道の足跡を探すのすら難しい。1つの橇を運びあげ、もう1つの橇の場所に戻ることすらおぼつかない。

そして強烈な寒さ。

私もずぶぬれの寝袋で寝たことはある。でも、彼らは、がちがちに凍りついた寝袋で寝る。畳んだ寝袋を広げて口を開けるという作業をするのに、3人がかりで1つずつ、ガンガンこじ開けなければならない。こむらがえりを起こしたりしながらやっと体温で溶けて柔らかくなってびしょぬれの状態になったところで、寝る。起きて抜け出すとすぐまたがちがちに凍りついてしまう。そのうち、その手間を省くために、入り口を広げた状態で畳まずにちょっと置いて、凍りついたところを橇に乗せて運ぶようになる。

着ているものも凍る。テントから外に出て佇んでいると服が鎧のように硬くなってしまって、橇を引く時に突っ張ってしまう。なので、テントから出るとすぐにそりを引く時の姿勢を維持して凍りつくのを待つ。そうしておいて、がちがちに固まった橇の引き綱をやはり3人総出で1つずつ整形して、装着する。

缶詰でもプリムスストーブでも、金属に素手で触ると一瞬で凍傷になってしまう。袋の口を縛った紐でもテントの入り口を縛った紐でも、あらゆる紐が針金のように凍りついている。それを分厚い手袋をして吹雪の暗がりの中扱うので、テントの設営も撤収も大変な時間がかかる。

起きてから移動を開始するまでに4時間かかり、手探り状態で暴風の中、1日に2,3キロ進むのがやっと。止まってから食事をして寝るまでまた4時間、という気の遠くなるような旅をして、最後は、猛烈な嵐に遭遇して移動用のテントを吹き飛ばされ、構築した石小屋の屋根が吹き飛んでしまって、なすすべもなく暴風にさらされたまま、露天に寝袋でに2昼夜を過ごしたりする。

と、越冬途中の遠征で死にかけたりして、次の夏、いよいよ南極点を目指して各所に帰路の食料・燃料を備蓄したキャンプを設けながら、最後に5人が南極点を目指し、5人とも帰還しないまま、2回目の冬が到来する。

救助隊が遺体と格調高いスコットの手記を発見したのは次の夏のことであった。

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