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2014年8月27日 (水)

「イリオモテヤマネコ」戸川幸夫

論理明快ですが、やや我の強い強引な文体は、ノンフィクションではあくが強く感じられます。
新聞記者の文章という感じです。
常々、新聞記事は、2割程度の疑念を残しながら読むのがいい、と思っています。故意過失による虚偽記載はごく稀でしょうが、着眼点に記者の主観が入るのは避けがたいでしょう。さらに、各新聞社のカラーがにじみ出てくるものですし、もっといえば、新聞社も営利企業ですから、情報元となる政府やスポンサーとなる企業との関係も、頭の片隅にあるはずです。
この本も、新聞記事と同じように8分目程度に読むなら、当時の西表島の風俗が臨場感たっぷりに描かれていて、引き込まれます。
犬に関するエッセーもありました。
今日の感覚からするとかなりワイルドな場面もありましたが、全体に愛情が感じられて好ましく読めました。
性格が悪かったり、身体に障害があったりする犬は、人にやってしまう、というのが常識だった時代のことです。
今日、犬は完全に愛玩動物一辺倒になっており、人と犬との関係は、すっかりエレガントでデオドラントなものになっています。
それと比べると、犬が人間の生活の道具だった時代の付き合い方を色濃く残していて、時代の雰囲気を感じました。
「骨の影」は、狼に関する短編で、叙情豊かなシーンで動物小説の片鱗が窺われます。
戸川幸夫は今回はじめて読みました。
子供の頃に読む機会があればよかったと思います。
椋鳩十は、小学校のとき教科書で「大造爺さんと雁」を読みました。子供の頃なのですっと読めました。
大人になってから読もうとすると、いろいろ疑問が沸いてきて、素直に読めないと思われます。
なので、戸川幸夫の他の動物小説についても、これからでも読んだものか、読まないものか思案中です。

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